ライン

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このままで、終われる訳がない。
絶対に、そう絶対に。
貴方に想いを告げないまま、別れるなんて。
せめて、さよならくらいは言わなきゃ。
その言葉を最後にする。

終業のチャイムが鳴ってから、私はまだ心の中で悩んでいた。
これが最後なんだから。
そう自分に言い聞かせる。
うつ伏せた机は、嗅ぎなれた鉛筆のにおい。
こんなときに、日常が思い浮かんで、切なくなった。
けれど、貴方とさよならしたくない、そんな想いが止まらない。
俯いた顔を上げて、教室の窓を開ける。
胸一杯深く息を吸って、空を見上げた。
飛行機雲が空をなぞっていた。
その様子が、妙に寂しくて、こんな風にいつか、「今」も忘れてしまうのだろうかなんて思ってしまった。
だから、絶対忘れないように、必ず思い出せるように。
心の中で、そう叫んだ。

いつの間にか、もう校舎は静まり返っていた。
先ほどまでは賑わっていたから、がらりとして急に切なくなった。
人気のない教室を見渡す。
……もう二度と今は戻らない?
口をついた、そんな言葉。
気がついたら、走っていた。
伝えなくちゃいけない。告げなくちゃいけない。
貴方の姿を探す。
長い廊下を抜けて、教室から教室へ。
膨らんで気持ちがどんどん加速する。
鼓動の音と共に、地を蹴る足も止まらなかった。
けれど、その姿は見つからなかった。

そのとき、はっと思い浮かんだ。
ごちゃごちゃ考えている暇なんてない。
思い出の場所。
貴方と一緒に笑って、時に喧嘩もした、あの場所。

階段を駆け上って、扉を開く。
抜けるような青色と、白。
いつもと同じ、空と雲がそこにはあった。
一番、空が近い場所。
「大好き」。
「さよなら」。
そんな言えるはずもない言葉を心の中で呟きながら、貴方を探す。
高鳴る鼓動に合わせるように、色々な思いが駆け巡る。
きっと、今日みたいな日が来てしまうこと、私はどこでわかっていた。
だけど、「偶然」に甘えていたんだ。
貴方の隣が、どれだけ大切な場所か、気づいていたのに、わかろうとしていなかった。

失くしかけて、やっとわかったんだ。
その重要さに。
一度手放したら取り戻せない、その大切なものに。


『今、君に告げるよ――』



広い屋上を見渡しても、人影はひとつも見当たらなかった。
――うそ。
こんなの嫌だよ。このまま別れるなんて。
本当の想いも、さよならだって言ってない。
いつの間にか、私の頬には熱い涙が流れていた。
涙と一緒に想いが溢れ出す。
貴方とのかけがえのない思い出が溢れ出す。

一番最初に出会った日のこと。
それから、一緒に帰った日のこと。
最初は全然貴方のことなんて知らなかったのに、今ではもうなんでも知ってる。
理不尽すぎるほど優しいこと。
私が悲しいとき、私が泣いているとき、肩を抱いていてくれること。

――そう、こんな風に。
いつの間にか、肩に暖かい温もりが宿っていた。
何も言わなくたって、何も見なくたってわかる。
必死に涙を拭いて振り向く。
そこには、いつものように優しい表情の貴方がいた。

どうして。
大好き。
さようなら。
まだ一緒にいたい。
ありがとう。

告げなきゃいけないことと、今まで溜め込んでいたものが一気に爆発して、余計涙が止まらなかった。
けれど、その貴方への止まらない想いを涙の中、必死で搾り出した。



「大好きだよ……」



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