つかまえた
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気がついたときには、貴方の笑顔を追っていた気がする。
だけど――それももう、終わりだ。
最初は、興味すらありもしなかった。
少なくとも、そう思ってた。
周囲の貴方への接し方とか、何故か気さくに話せたこと。
たまに見せる憂いの顔が、切なくて。
ずっと、笑っていて欲しいなって、そう思っていた。
だから、最近、貴方が笑わないのが、私は悲しかった。
特に何かあった訳じゃなかったのかもしれない。
だけれど、何かを隠しているようなその表情は、やっぱり切なかった。
負担になっちゃいけないと思って、話しかけられもしなかった。
なのに、私は貴方に笑って欲しいって思ってて。
そろそろ、別れの季節が近づいていることに、気づきもしないで、そんなことにばかり悩んでいた。
貴方と会える、最後の日。
何故か、悲しくはなかった。
皆で笑って、おめでとうとか、ただそんなことばっかり言い合ってた。
夕日が空を赤く染める頃になって、やっと、胸の奥から悲しみがこみ上げてきて。
でも、もう遅かった。
その時にはもう、貴方と別れていたから。
あの一瞬の、貴方の笑顔を思い出したら、このままで別れたくなんてなくなって。
きっと、追いかければ間に合うはず。
私はとにかく走った。
こみ上げてくる悲しみに負けないように、息が苦しくても、必死に走った。
探すのは、貴方の背中。
迷いなんてしなかった。
疑うこともなく、私はただその道を走った。
そして、夕日に向かう坂の上で、貴方のその背中をやっと見つけた。
貴方が振り向いた瞬間に、涙が溢れ出して。
ずっと止まらなかった足は、力が抜けてもう動かなかった。
泣き崩れる私に、貴方はそっと歩み寄って、頭を撫でてくれた。
言わなきゃいけない。
言わなきゃいけないのに、涙が邪魔して声が出ない。
けれど、貴方のその優しい手の温もりを感じていたら、いつの間にか涙は止まっていた。
「どうしたの?」
そう問う貴方を見つめて。
まだ落ち着かない心臓を、必死に鎮めながら、呟くように言った。
「――大好きです」
いつも追いかけていた貴方の笑顔が、そこにあった。
やっと、捕まえることができたような気がする。
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