Blossom - サキ×桃歌 お題2「『もうやめて、』」
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桃歌チャンは時に、男に対しても物凄い威圧感を発揮する。
例えば、葉山先輩。彼は何かと俺や俺の味方をする部員に対して敵対心を抱いているせいか、結構な頻度で彼女に睨まれている。
「ふーん? で、基山はどうして欲しいワケ?」
「今の言葉、撤回してください」
部活終わり、片付けをして戻ってきた二人が、少し隠れて言い争いをしているのを見つけた。
葉山先輩は桃歌チャン相手に取り乱したりしない。いつでも余裕の表情を浮かべている。
桃歌チャンはといえばいつもの愛くるしい笑顔ではなく、冷たい瞳。
それでもまぁ、怖いというほどではないのだけれど、多分俺があの目で直視されたら、ドキリとする。
「俺がそう思ってるってだけなのに撤回する必要ある? 事実かどうかは置いておいて」
……と、何やら部員のプライドを守るために戦ってくれているようで、結局は言いくるめられてしまったけれど、俺は葉山先輩がいる間は何も見ていなかったように振舞った。
「ねえ桃歌チャン、さっきの聞いてたんだけどさ」
先輩やらと別れた帰り道に、さり気なく切り出してみると、彼女はきょとんとした顔をした後、少し悲しそうにした。
「そんな顔しないでって。あのね、桃歌チャンがわざわざ俺らのこと守ってくれなくたっていいんだよ。キミのことを守りたいのは俺らの方なんだし」
その光景を眺めていて、伝えたかったことを伝える。彼女はそれでも目をそらして、口をきゅっと結んだ。
「でも、サキ先輩も、他の部員も……みんな、私を守ってくれます。私がみんなを守ろうとするのは、いけないんですか?」
そういう意味じゃない。勿論俺だってみんなだって、桃歌チャンに感情的になってもらって、嬉しくないわけじゃない。それでも――。
「桃歌チャンが体を張って向かってくのを見てるのは辛い。守られるより守りたいんだ。だから、もういいよ」
前を歩く水瀬と琴がワイワイやって、その後ろの隼が溜め息をついているのを傍目に見ながら、桃歌チャンの肩を引き寄せる。何よりも、安心して欲しい。安寧でいてほしい。
「……それなら」
呟くような彼女の言葉に、首を傾げて問い返すと、彼女は一度目をつぶって、笑ってみせた。
「もうやめてください。私もサキ先輩が体を張るのは見たくないです。私もやめますから、サキ先輩もやめてください」
……彼女には、完敗だ。こんな風に笑って、首を横に振れるはずがなかった。
だけど、俺はきっとまたやってしまうんだろう。だって、この笑顔を悲しませたくなんてないから。
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