Blossom - サキ×桃歌 お題1「やっと見つけた、だから俺のものだ」

--------------------

『ずっと好きでした』
『愛してます』
 今まで、数えきれないほどの人に、好意を言葉でアピールされてきた。簡単に言うと、告白、だ。
 しかし、俺には実感は湧かなかった。
 自分がそういう意味での好意を寄せたことがない……というわけじゃなかったが、何だかわからなかった。
 告白してきてくれる子は九割九分、ほとんど話したこともない子ばかりだった。
 彼女たちに好かれているという感じはもちろんした。しかし、彼女たちにとってほとんど関係のない自分が一番というのはおかしいとどこかで思っていた。
 しかし、俺はやっと気がついたんだ。
 恋焦がれたらどんな相手も関係も省みなくなる。どうしようもなくなる。
 これまで本気で惹かれたのは姉たちしかいなかったから、衝撃だった。
 彼女にしようと決めた理由は特になかった。しいて言えば本人に言ったようなことくらい。
 浮かれすぎそうならやめようと思っていた。声をかけるに留めようと。
 しかし俺は自分でやめたくないと思うほど彼女が気になってしまった。
 喜ぶでもなく、困った顔をした。泣きそうだった。
 しかし、すぐ後には無邪気に笑った。
 初めは少し気になった程度。"お気に入り"なんて言葉が出てくるなんて思わなかった。
 もう離せなくなるじゃないか――そう気づいたときには、既に桃歌チャンの仕草が、赤い頬が、小さな口が、愛おしく思えていた。
 本気になってしまったと水瀬に気がつかれたかと思って、心底焦った。
 だからあの時のもやもやを全て彼にぶつけるように八つ当たりしてしまった。
 ……彼の言葉は冗談ではなかったけれど。
 部活のことを思い出したときには、何でこんなに早く声をかけてしまったんだろうと後悔したりもした。
 けれど今思えば、俺が早く捕まえていなければ、彼女に声をかけた人がいたかもしれない。
 現に梢は入部する前から彼女を狙っていた節があった。
 だから、これで良かったと思った。
 俺たちについてくる桃歌チャンは小動物みたいでかわいかったけど、少し不安だった。
 果たしてこの子に、俺に纏わりつくしがらみを乗り越えるだけの力があるのかどうか。
 しかし、桃歌チャンは、徐々にそのカリスマ的な魅力を垣間見させ始めた。
 俺は、正直ただただ驚いた。
 桃歌チャンは傍から見れば普通の、目立たない女の子で、どちらかと言えば内気で。
 最初は乗り気じゃなかった琴とすぐに仲良くなり、隼や水瀬、そして朝斗先輩にも気に入られる。
 そして何よりも――俺たちが抱える問題に、彼女から踏み込んで来たのだった。
 俺には面と向かっては表していなかったけれど、俺たちと触れるたびに、そのしがらみの端っこをつついて、暴こうとしていた。
 傷つけてしまいそうになったり、俺たちが本来守らなくちゃいけないのに、彼女は俺たちの傷をえぐるまいと、低い地位で、小さな力で、真実を知り、たくさんの男たちの中でも臆さなかった。
 そして俺に自信を、愛情を覚えさせてくれた、唯一の人。
 桃歌チャンに声をかけたのは、言ってみればうちの花屋で運命的な出会いをお客さんたちがしているような、そういうはっとしたことだった。
 舞台の上から、確かに彼女の瞳が「見えた」。他の子ではなくて、桃歌チャンの。
 彼女を認識したとき、確かに俺は確信したんだ。俺は彼女が好きになるって。
 やっと見つけた、愛せる人。これからずっと、愛せる人。
「――やっと見つけた、だから俺のものだ」
 抱きしめた小さな頭から、温かい体温を感じる。確かに今ここにいる、俺の愛する人。
 顔を見なくたってわかる、照れくさそうにする仕草が、愛おしくてたまらなくて。
 思わず強く抱きしめたくなるけれど、俺は反して腕を解いた。
 やっと見られたその表情は、少し怒っているようにも見えて。
 だから、そんなお姫様に、ご機嫌になれる魔法をかけてあげる。
 火照って熱い頬を包んで、唇を重ねたら、ほら、君はもう目を閉じて。
 息遣いが聞こえるほど近くにいて、溶け合ってしまうほどにくっついて。
 それでも二人は、確かに二人なんだ。


Back